時は金なり。1978年に成田空港が開港して以来、26年以上もの間、我々は海外に出かけるたびに、この言葉のもつ重みを痛感してきた。
成田空港は都心から約70キロ。大きなトランクを引きずり階段の上り下りをして、東京駅で成田エクスプレスに乗ってから60分。
車では、交通渋滞で120分かかる。近隣アジア諸国への飛行時間は3時間程度だから、出国手続きに2時間みると、飛行時間より乗るまでの時間の方が長いのが実態だ。
また、青森や熊本など地方から海外に出かける人の多くは、いったん羽田に来て、バスで80分かけて成田へ行かなければならない。
さらに、成田空港周辺の人も、国内線を利用するには、立派な空港を横目に、わざわざ羽田へ行かなければならない。
これはすべて、「成田は国際線、羽田は国内線」という、世界にも類を見ない極端な分担論によるものである。
羽田空港は首都圏の中心に位置し、都心から35分。京浜工業地帯や東京、横浜の港にも近く、空と海の連携によりわが国全体の更なる活性化も期待できる。
近年、成長著しいアジア諸国には、国際会議やビジネスなどの環境が整いつつある。
観光面でも近々香港にディズニーランドができるなど、もはや「日本でなければ」という時代ではない。
激化するアジア諸国間の競争を勝ち抜くためには、国家戦略として、旅客・貨物を含めた、羽田と成田の役割を抜本的に見直し、
両空港の利便性向上により、その機能を最大限に発揮されなければならない。
具体的には、羽田はアジアなど近距離国際線とし、飛行距離も最低限、香港までをカバーできる三千キロ圏とする。
成田は欧米など遠距離国際線とし、現在36カ国が希望している新規路線も受け入れる。
両空港に乗り継ぎ可能な国内線を配置し、それぞれがハブ空港として機能を分担し合えるようにすることが重要だ。
将来的には、米軍横田飛行場の軍民共同使用など、より広域的視点からの検討も必要だろう。
羽田空港再拡張事業はまさに、わが国の空の表玄関が成田に移って以来、失ってきた国益を取り戻すラストチャンスである。
にもかかわらず、国土交通省航空局の計画内容はなんともお粗末だ。
まず、発着回数を12万回増加させるが、国際線については、国内線9万回を優先した残り3万回を「余裕枠」として充てるという単純な引き算の発想でしかとらえていない。
そもそも余裕枠という表現が、戦略性のなさを証明している。
また、飛行距離は、羽田から2千キロ圏を基本に考えており、これでは、ソウルや上海などには行けても、北京や台北、香港など多くの主要都市には行けない。
計画からは、成田空港の反省を生かしきれない国家戦略の欠落や危機感の欠如しか感じられない。
先月開催された国交相と、資金協力する神奈川県、横浜市、川崎市の三首長との協議でも、
航空局の発言は相も変わらず「羽田は国内線を基本とし、国際線は3万回」のままだ。
同じ国交省が進める観光立国政策「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の理念にも反する。
羽田空港国際化は、首都圏のみならず国民全体の重要な問題である。
国は、一刻も早く「成田は国際線、羽田は国内線」の呪縛を解き、国益を最優先に考えた、戦略性ある羽田空港再整備を進めるべきである。
(2005年(平成17年)2月10日 読売新聞論点より)